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2010年4月4日

光文社古典新訳シリーズ(4)

快調に続いている光文社古典新訳シリーズ。元々ハズレが少ないところが気に入っているのだが、今回は当たりがとても多かった気がする。一番を選ぶのがとても大変・・・

(31) オンディーヌ(ジロドゥ):戯曲。設定は人魚姫なんだけど印象は全然違う。水の精であるオンディーヌがとても魅力的です。人魚姫の王子様にあたるハンスについて、きれいだけどバカ、と言い切るのがすごく素敵なのだが、ハンスちょっと可哀想かも(笑)。これ劇場でみたら感動するだろうなぁ・・・

(32) 消え去ったアルベルチーヌ(プルースト):「失われた時を求めて」は一応少し読んだことあるのだが、マドレーヌを紅茶に浸して食べると、という所しか覚えていない(笑)。たぶん1章くらいで挫折したのではないか。とにかく覚えてないんだけど、これはその6章。5章までを読んでなくても大丈夫なように、親切な註が付いています。で、、、これイイ!!去っていったアルベルチーヌを取り戻そうと右往左往する様子も、永遠に失って愕然とする様子も、引き込まれる感じで読んだ。最終章のヴェネツィア旅行が、筋からするとよく意図が判らない部分もあるんだけど、描かれているヴェネツィアがとてもヴェネツィアです。とても魅力的なヴェネツィアなのに、ある日魔法のようにその魅力が消え去ってしまうラストも印象的。いやー読んで良かったです。感動。

(33) ドリアン・グレイの肖像(ワイルド):オスカー・ワイルドって名前は知ってるけど、考えてみると幸福な王子しか読んでないかも。これとても面白いです。本人は無垢な美青年のまま、肖像画だけが意地悪く年老いていくという怪奇譚なんだけど、美青年がだんだんに堕落していく様子が「赤と黒」とは違った凄みをもって描かれています。お勧め。

(34) 愚者(あほ)が出て来る、城砦(おしろ)が見える(マンシェット):妙な題名は中原中也の訳詩をもじったそうですが、、、意図通りの印象を与えるかどうか疑問。内容はハードボイルド。というか純粋に暴力を描いた小説と言う感じ。映像にすると相当スプラッタですが、字で読む分には怖くない(笑)。でも面白いのでこれを映画にしたくなる気持ちは良く判る。怖いもの苦手な私は見たくないですが、でも香港ノワールとして作られて、トニー・レオンがトンプソン役なら見たいかも。暴力好きの方は是非どうぞ。正義はどこにもなくて暴力だけがある。説教臭くない分、すかっとするのかも。

(35) 一ドルの価値/賢者の贈り物(O・ヘンリー):賢者の贈り物と最後の一葉を、学生の頃に授業で原語で読まされた。道徳的な説教臭い短編を書く人だと思っていたのだが、日本で有名なのがたまたまそういうものだっただけで、単に最後にオチのある短編を書く人だったのね(笑)。むしろ不道徳なオチもたくさんあるが、全日空の機内誌に載りそうなお洒落な話が多い。私が一番気に入ったのは「しみったれな恋人」。デパートガールがお客様(実は大金持ち)に、結婚してくれたら美しい建物が並ぶ海辺の街やら世界中の風景を見せてあげる、と言われる。「知ってる、ゴンドラに乗るところでしょ」と返す彼女の頭にあったのは、豪華世界旅行ではなくご近所の遊園地コニーアイランド、というオチ。笑える・・・

(36) 狂気の愛(ブルトン):初めて読んだ。後書きにも書いてあるけど、題名から受ける印象とだいぶ違う。訳語としては無分別な愛、あたりが正しいのではないか。別に狂気は感じません。もっとも「狂気の沙汰」という慣用句ならたいして狂気を感じなかったりするので、初訳が出た頃は「狂気」という言葉はもっと軽いものだったのかもしれない。シュールレアリスムの文学版だそうで。頭の中に浮かぶイメージをそのまま書き留めていったようなⅤ章は、ダリの夢の絵みたいで印象的。恋愛論としてはいまいち。恋愛は唯一無二である筈なのに、複数の女性に恋してしまうのは、女性たちに共通する「タイプ」が唯一無二なのだ!って。それは屁理屈というものではないでしょうか(笑)。

(37) 変身/掟の前で(カフカ):変身は何度か読んだことあって設定は覚えていたけど、この訳が一番いいと思う。家族が困惑する様子とそれを見て本人も更に困惑する様子。哀しい物語だが救いがないようなあるような。人生は理不尽だ・・・

(38) 野生の呼び声(ロンドン):初めて読んだ。ジャングルブックの人なのだそうだ。これは人ではなく犬が主人公。お屋敷で幸せに暮らしていた番犬が、悪意によって売り飛ばされて橇犬になり、窮状を救ってくれた人間の飼い犬に戻るも、結局は野生の狼になっていく(ならないか)物語。犬好き必読。

(39) そばかすの少年(ポーター):そばかすの孤児が良い環境を得て、どんどん愛情と知識を見につけ、成長していく物語。最後には、実はあなたは大金持ち!と完璧なハッピーエンド。「秘密の花園」に近いけど、描かれる環境は全然違い、お屋敷の庭ではなく大自然。環境保護的観点も入ってはいるのだけど、時代が古い分、道徳的な論調。アメリカ開拓っぽい。

(40) 新アラビア夜話(スティーブンスン):千一夜物語の新訳ではなく、千一夜物語風の「新しい」冒険譚。「実は王子様」が街をうろうろして面白いことはないかなーと冒険する。舞台はアラビアではなくロンドン。タルトを配って歩く若者で始まる「自殺クラブ」が私は一番好きかな(結局食べ物かよ)。

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